「うちの会社の“雇用者給与等支給額”が0円になっている…これって問題ないの?」
「それとも、何か手続きを間違えている…?」
決算や税務申告の書類を前に、その「0円」という記載が、正しいのか、それとも重大なミスなのか、判断に迷っていませんか。「もしかしたら税務署に睨まれるかも」「受けられるはずの優遇措置を逃しているのでは…」そんな不安が頭をよぎるかもしれません。
この記事は、そんなあなたの究極の選択、つまり自社の「0円」が“問題ないケース”なのか“要対応ケース”なのかを明確に判断するために書かれました。客観的な事実と公平な分析に基づき、あなたの迷いを解消し、次に取るべきアクションを100%理解できるよう徹底的にサポートします。
【結論】あなたの会社の「0円」はどっち?
お忙しいあなたのために、まず結論からお伝えします。ご自身の会社の状況と照らし合わせてみてください。
【問題ないケース】に該当する可能性が高い会社
- 社長一人だけの会社で、役員報酬も支払っていない
- 会社を設立したばかりで、まだ従業員を雇用していない
- 現在、事業を休止している
【要対応ケース】に該当する可能性が高い会社
- パート・アルバイトを含め、従業員に給与を支払っている
- 本来は給与なのに、「外注費」や「業務委託費」として処理している(実態が雇用契約の場合)
- 単に会計ソフトへの入力ミスや計算間違いをしている

ご自身の状況がどちらに近いか、おおよそ掴めましたか?ここから先は、なぜそう言えるのか、具体的な理由と影響を詳しく解説していきます。
まずは基本をチェック!「雇用者給与等支給額0円」とは?
判断を下す前に、そもそも「雇用者給与等支給額」とは何を指すのか、そしてなぜ「0円」になるのか、その定義を正確に理解しておきましょう。
「雇用者給与等支給額」のプロフィール
これは、会社が「雇用」している従業員に対して支払った給料、賃金、賞与、残業手当などの合計額を指します。ポイントは**「従業員」**への支払いが対象という点です。したがって、社長や取締役など**「役員」に対して支払われる役員報酬は、原則としてここには含まれません。**税務申告や社会保険の手続きで非常に重要な数字です。
「0円」になる主な理由
会計上の数字が「0円」になるのは、非常にシンプルです。
- そもそも従業員が一人もいない。
- 従業員はいるが、その事業年度内に一度も給与を支払っていない(設立初年度や休業中など)。
このどちらかに当てはまっていれば、会計上の数字が「0円」になるのは当然と言えます。
違いはココ!「0円」が各制度に与える影響 比較一覧表
「雇用者給与等支給額が0円」であることは、税務や社会保険の各種制度にどのような影響を与えるのでしょうか。給与支給がある場合と比較してみましょう。
制度・手続き | 「0円」の場合の扱い | 給与支給がある場合の扱い |
---|---|---|
法人事業概況説明書 | 労務費など「0」と記載。 理由を説明できるように。 | 支払った給与総額を記載。 |
賃上げ促進税制 | 適用不可 (給与の増加額が0のため) | 前年度からの増加率に応じて 税額控除の可能性あり。 |
社会保険 (健康保険・厚生年金) | 役員のみが対象 (報酬額による)。 従業員の加入はなし。 | 役員・従業員ともに 加入義務あり。 |
労働保険 (労災・雇用保険) | 原則、加入対象者なし。 | 従業員がいる場合、 加入義務・保険料納付あり。 |
【3つの重要ポイントで徹底解説】あなたの会社への影響は?
一覧表の内容を元に、特に経営者が気になるであろう3つのポイントについて、さらに深掘りして解説します。
Point 1:税務申告への影響:「0円」記載で税務署に疑われない?
法人税申告の際に提出する「法人事業概況説明書」には、従業員数や労務費を記載する欄があります。
- 「0円」の場合:従業員数が0人、労務費が0円と記載します。これは「当社には従業員がおらず、給与支払いはありません」という事実を申告していることになります。役員のみの会社など、実態と一致していれば何の問題もありません。ただし、他の項目(例えば外注費が極端に多いなど)とのバランスによっては、税務署から「実質的な給与ではないか?」と問い合わせが来る可能性はゼロではありません。
- 給与支給がある場合:従業員数と支払った労務費の総額を記載します。源泉徴収や社会保険料の納付状況など、他の書類との整合性がチェックされます。



重要なのは「なぜ0円なのか」を明確に説明できることです。実態がそうであれば、堂々としていれば大丈夫ですよ。
Point 2:節税メリットへの影響:「0円」だと賃上げ促進税制は使えない?
これは明確な違いが出ます。賃上げ促進税制は、前年度と比較して従業員への給与支給額を増やした場合に、法人税が控除されるという非常にお得な制度です。
- 「0円」の場合:比較する前年度も当年度も給与が0円では、増加額も当然0円です。したがって、賃上げ促進税制の適用は受けられません。
- 給与支給がある場合:前年度からの増加率などの要件を満たせば、税額控除を受けられる可能性があります。
【結論】節税という観点で見れば、「0円」の状態では賃上げ促進税制のメリットは享受できない、と明確に覚えておきましょう。
Point 3:社会保険・労働保険への影響:「0円」だと手続きはどうなる?
保険の手続きは、従業員の有無で大きく異なります。
- 「0円」(=従業員がいない)の場合:従業員を対象とする労働保険(労災保険・雇用保険)は、加入義務がありません。社会保険(健康保険・厚生年金)は、役員も加入対象ですが、役員報酬が0円の場合は加入できないなど、状況によって手続きが異なります。
- 給与支給がある(=従業員がいる)の場合:労働保険・社会保険ともに、要件を満たす従業員を加入させる義務が発生し、会社負担分の保険料も納付する必要があります。
【結論】「0円」であることは、社会保険・労働保険の手続きやコスト負担が、現時点では発生しないことを意味します。
【最終結論】あなたの会社の状況別・対応チャート
これまでの比較を総括し、あなたの会社が今、何をすべきかをチャート形式で示します。
「0円」で問題ない会社が、念のため確認すべきこと
あなたは「役員のみで報酬ゼロ」「設立直後」「休業中」などのケースに当てはまります。
- 実態の確認:本当に従業員(パート・アルバイト含む)はいないか?雇用契約に近い業務委託はないか?を再確認する。
- 書類の整合性:法人事業概況説明書の従業員数・労務費が「0」になっているか、他の書類と矛盾がないかを確認する。
- 将来の計画:今後、従業員を雇用する予定があるなら、その際に必要な手続き(社会保険・労働保険など)を予め調べておく。
「0円」は要確認・要対応の会社が、今すぐやるべきこと
あなたは「従業員がいるのに0円になっている」「計上ミスかもしれない」などのケースに当てはまります。
- 給与台帳との照合:会計ソフトの「給与手当」や「賃金」などの勘定科目の合計額が、給与台帳の支給総額と一致しているかを確認する。
- 勘定科目のチェック:給与を誤って「外注費」や「支払手数料」などの別の科目で処理していないかを確認する。
- 専門家への相談:もし誤りが見つかった場合、または判断に迷う場合は、すぐに税理士に相談する。修正申告が必要になる可能性があります。
まだ迷っているあなたへ|よくある質問 Q&A
- Q1. 役員報酬だけ払っていて、従業員がいない場合は「雇用者給与等支給額」はどうなりますか?
-
A. その場合、「雇用者給与等支給額」は0円になります。役員報酬は含まれないためです。ただし、法人事業概況説明書には「役員報酬」を記載する別の欄がありますので、そちらには支払った金額を正確に記載する必要があります。
- Q2. 間違って0円で申告してしまったら、どうすればいいですか?
-
A. 気づいた時点で、速やかに税理士などの専門家に相談してください。意図的でなくても、誤った申告を放置すると、税務調査で指摘された際に延滞税や過少申告加算税といったペナルティが課される可能性があります。専門家のアドバイスのもと、正しい内容で修正申告を行うのが最善です。
- Q3. ひとまず「0円」で申告しておいて、後から修正するのはダメですか?
-
A. 絶対にやめてください。明らかに事実と異なる内容で申告することは、虚偽申告とみなされるリスクがあります。税務の世界では「知らなかった」は通用しないケースが多いです。申告時点で、事実に基づいた最も正確な内容を記載することが大原則です。
まとめ:正しい理解で安心な会社経営を
「雇用者給与等支給額0円」というテーマについて、その意味から影響、そして具体的な対応までを解説しました。最後に、この記事の要点をまとめます。
- 「0円」の理由は何か?:まず、自社の状況がなぜ「0円」なのか、その根本原因を正確に把握することが全てのスタートです。
- 実態と一致していれば問題なし:従業員がおらず、給与支払いの事実がないなど、正当な理由で0円なのであれば、何も心配する必要はありません。
- もしミスなら速やかな対応を:万が一、計上ミスや誤解が原因であれば、問題を先送りせず、速やかに正しい状態に修正することが重要です。
- 不安な時は専門家が最強の味方:少しでも判断に迷ったり、手続きに不安を感じたりした場合は、税理士に相談するのが最も確実で安全な道です。
「0円」が良い・悪いではなく、「0円」という記載が**あなたの会社の真実の姿を映しているか**が最も重要です。この記事を参考に、自社の状況を正しく理解し、自信を持って経理・税務処理を進めてください。それが、より健全で安心な会社経営へと繋がるはずです。